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大阪高等裁判所 昭和53年(く)5号 決定 1978年1月31日

少年 M・J(昭三三・四・一九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人○○○○作成名義の抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

抗告理由(一)は、要するに、原決定が認定した犯罪事実第6の(1)(2)はいずれも証明が十分でないから、右各認定には重大なる事実の誤認がある、というのである。

よつて、本件少年保護事件記録を精査して検討すると、次の事実が認められる。即ち、少年は、昭和五〇年三月ころ高校一年で中退後、昭和五一年一月ころから同年四月ころまでの約四か月間父が船長をしているマグロ船に一航海乗り込んだことと同年一二月ころから昭和五二年三月ころまでの約四か月間右マグロ船の船主が経営する金融業の手伝いをしたのみで、その余は無為徒食していたものであるところ、もと暴走族「○○」(この暴走族は昭和五二年夏ころ警察の指導で解散した)の会長であつたAに働きかけて同人らと共に昭和五二年一〇月三日暴走族「○○○○」を結成し、会長には右A、副会長にはB(もと○○の副会長)を選任して自らはCと共に表だつた役職には就かず、もと○○の会員を中心に加入させた会員約二〇名の上に君臨したうえ、右○○○○の会員を増やすと共に会費(月一、〇〇〇円)の増収をはかつてもつて勢力を拡大するため、そのころ○○○○高校と○○高校を中心とした高校生で結成されていた暴走族「○○○」(当時会員約四〇名)に働きかけて会員を増やすことを決意し、○○○○の会員D(当時○○○○高校二年生)に指示して同月八日午後二時ころ○○○の隊長J(○○○○高校一年生一六歳)を前記C(当時一九歳無職)が居住していた○○荘アパートに連れて来させて、同所において右C、前記A(当時一九歳自動車修理工)、E(○○○○の会員で当時一七歳漁協組職員)と共に右Jに対し約二時間にわたつて同人及び○○○のメンバーが○○○○に入会することを勧めたが、その際Jは○○○の他のメンバーと相談しないと一存では決められないと即答を避けたところ、少年は「お前ら俺にさからつたら一生つきまとつてやる」とか「○○に居られんようにしてやる」といい、またCが「入つておく方が得やで」、Eが「そうやそうや」などといつた。Jはそのときそのアパートにいた少年らとは初対面であつたが当日Dの案内で右アパートに行くまでの間に右Dから○○○○のリーダーはM・J(本件少年)で同人は乱暴者で自分も辞めたいけれども辞めると殴られる心配があるので辞められないでいる旨を聞かされていたところへ右のとおり脅し文句をいわれたためとても少年らにさからうことはできないと恐れた。Jは同日午後四時ころ同アパートを去るときCから入会するかどうかの返事を一〇日までにすることを約束させられた。そこでJはその約束の日の一〇日午後七時ころ○○○のKら会員六名と共に指定された場所である国鉄○○駅に行つたところそこにはCらが待つていて同駅から二〇〇メートルばかり入つたところにある薄暗い広場に連れて行かれ、やがてそこにはCのほかA、Bら○○○○の会員約一四、五名(ただし少年M・Jは入つていない)が集まり、同所においてCがJら七名に対し冒頭から「お前ら○○○○入るんか入らんのか」などとすごんだうえ、「俺らは警察は恐ろしくない」旨脅した。Jら七名は自分らより背の高い者もいる○○○○の会員一四、五名に取り囲まれたうえ右のとおり脅されたため入会を断つたらなにをされるか知れないと畏怖し、それがため入会を断ることができず結局Jが代表して入会する旨を答えたところ約三〇分ほどでその場から解放された。その解放前にCはJら六名に対し会費は一人一か月一、〇〇〇円であるから一三日までにまとめて持つて来るように命じた。そこでJは同月一二日夕刻喫茶店に○○○の会員約二十数名を集めて同人らに対しそれまでの経過を説明すると共に○○○○に入会すべきかどうかを協議したところ、一部には○○○○に入ると同会にはけんかに強い者がいるので○○○としても強力な後楯ができて心強いとする意見もあつたが、大勢は入会反対で結局○○○○には入会しないことで話がまとまり、ただ○○○としてはJが前記のとおり一〇日に入会すると話していることと入会を断つたら○○○○のメンバーから何をされるかわからないという恐れから、入会しないけれども一か月分の会費相当の金員一人各一、〇〇〇円を会費として渡そうと決め、その協議した席上及び翌一三日の両日にわたつて○○○の会員から一人一、〇〇〇円ずつ二七人分合計二万七、〇〇〇円を集めてこれを○○○の会員K(○○○○高校二年一六歳)が一三日午後六時ころ指定された国鉄○○の近くの前記広場に持つて行き、同所において○○○○の会長Aと共に取りに来た副会長のBにそれを渡した。その金員は同人から同日中にCに渡され、その後それは少年とCらが飲食費等に費消した。なお、少年は前記一〇月一〇日Cらが○○○のメンバーと会う前の同日午後五時ころCのアパートで同人から今晩午後七時ころ○○○の連中と会うことになつていることを知らされて知つたが、自分は行かないのでCらに委すといい、その際同人に「いうことをきかなんだらバチすえたれ」といつた。以上の事実が認められ、これらの事実を綜合して考えると、少年が昭和五二年一〇月八日午後二時ころCが居住していた前記アパートにおいて同人らと共同して原決定の犯罪事実第6の(1)のとおりJを脅迫した事実及びC、A、Bらと共謀のうえ同月一〇日午後七時ころ前記広場において同第6の(2)のとおりKら七名を脅迫して同月一三日午後六時ころ同広場において同人から同人らが集めた二万七、〇〇〇円を会費名下に喝取した事実は優に認められる。右(1)の際Cのアパートにおいて少年らがJに対し菓子とコーラをすすめて飲食させたこと及び同人が途中から膝をくずしていたことは所論指摘のとおりであるが、これらの事実は右(1)の認定の妨げとはならない。してみると、原決定の犯罪事実第6の(1)(2)につき重大なる事実の誤認はなく、論旨は理由がない。

抗告理由(二)は、要するに、原決定が認定した少年の性格、行動歴、家庭環境などには数多くの事実の誤認があり、それらの誤認は一つ一つは些細であつてもこれを綜合すると決定に影響を及ぼすほどの重大な事実誤認である、というのである。

しかしながら、少年の性格、行動歴、環境などは非行事実の存在を前提として検討される要保護性の基礎事実であるが、これらの事実は保護処分決定に対する抗告の理由の一つたる「重大な事実の誤認」(少年法三二条)の「事実」には当らない。これらの事実が意味をもつのは保護処分の要否及び要とした場合その保護処分の種類と内容の決定に重要な影響を及ぼすところにあるから、これら要保護性の基礎事実に関する事実誤認の主張に対しては保護処分の当不当の判断の際それに必要な限度で判断するをもつて足ると解する。よつて本件の場合には次の(三)の処分の当不当の判断の際それに必要な限度で一括して判断する。

抗告理由(三)は、要するに、原決定が少年を中等少年院送致とした処分は著しく不当である、というのである。

よつて、本件少年保護事件記録及び少年調査記録を調査して検討すると、少年は身長一七二センチメートル、体重七一・五キログラムと健康に恵まれて身体に欠陥はなく、知能も格別劣つているわけではないから就学、就労に全く支障がないのにこれらを嫌い、高校に入学したものの昭和五〇年三月ころ一年次も修了せずに中退し、以後は前記のとおり合計約八か月働いたのみであとは無為徒食に過ごしていただけでなく、その間に原決定のとおりの本件各犯行を重ねたものであり、またその間の昭和五〇年六月ころから両親の援助をあてにして内妻(一九歳)を迎え入れている者であつて、少年のこれらの生活態度等と本件各犯行の動機、態様などからみると、少年は生活がルーズであるうえ、自己顕示欲が強く、他人の立場を考慮しないで粗暴な行動をとりながらその反省を欠いていたことは明らかであり、性格の偏りが顕著であるため社会適応力を著るしく欠いている。この性格の偏りはこれまでの生活習慣の中で形成されたものであるから一朝一夕にして矯正できるものではない。一方少年の家庭は父がマグロ船の船長として長期間留守がちであるため少年に対する監督に目が届かず、母は少年を甘やかすのみで両親とも少年に対する保護能力に欠けている。したがつて少年を社会内処遇で矯正することは困難であるから、少年の健全な育成を期するには、この際少年を施設に収容して規律ある生活を体験させて内省を深めさせ、もつて社会適応力をつけさせる必要がある。少年は本年四月で成人に達する者であるが、それだけに今のうちに徹底した指導教育が望まれる。少年の両親は船主の知人に依頼して同人が経営している建築業に就職させて在宅で指導監督をしたいとしてその受入体制を一応整えたが、前記のとおり少年の社会内処遇での矯正は困難である。そうすると、少年を中等少年院送致とした原決定は正当であり、これを不当とする論旨は理由がない。

なお、職権によつて調査すると、原決定は犯罪事実第8においてLに対し数人共同して暴行を加えよつて同人に対し加療約二週間の傷害を負わせたとの事実を認定しながら法令の適用において暴力行為等処罰に関する法律一条を適用しているが、これは刑法二〇四条(傷害罪)を適用すべきところを右のとおり適用すべき法令を誤つたものである。しかし、この法令適用の誤りは本件少年保護事件においては保護処分の結論に影響を及ぼすものではないから原決定を取消す理由とはならない。

よつて、本件抗告は理由がないので、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 戸田勝 裁判官 角敬 角田進)

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